- サラリーマンの特定支出控除
- サラリーマンのスーツ代
- ハードルが高いスーツ代での節税
サラリーマンは経費の計上なんて出来ない!それが一般的な概念です。
しかし、サラリーマンにも「特定支出控除」というものがあるのをご存知でしょうか?
サラリ-マンの特定支出控除

「特定支出控除」とは聞きなれない言葉ではないでしょうか?
これは、サラリーマンでも仕事上で使用した経費を控除できるという制度です。
よく知られているように、企業や個人事業主には経費が認められています。
その分、サラリーマンには「給与所得控除」という概算経費を控除する仕組みになっていました。
【給与所得控除(平成29年4月1日~)】
- 1,800,000円以下
:収入金額×40%(※650,000円に満たない場合は650,000円) - 1,800,000円超え3,600,000円以下
:収入金額×30%+180,000円 - 3,600,000円超え6,600,000円以下
:収入金額×20%+540,000円 - 6,600,000円超え10,000,000円以下
:収入金額×10%+1,200,000円 - 10,000,000円を超える
:2,200,000円(上限)
給与等の収入金額を基準とし、給与所得控除額が算出されます。給与所得の源泉徴収票が2枚以上ある場合には、それらの合計金額により算出します。
給与所得が500万円の場合
実際に計算してみましょう。例えば給与所得が500万円だったと仮定します。
500万円は上記の表に当てはめると、3,600,000円超え6,600,000円以下になるため、計算すると次のようになります。
5,000,000円×20%+540,000円=1,540,000円
よって、給与所得控除は1,540,000円ということになります。
このようにサラリーマンには、企業や個人事業主と比較して不公平にならないように、給与所得控除が設けられています。
特定支出控除とは?
(平成29年4月1日現在法令等)
給与所得者が次の1から6の特定支出をした場合、その年の特定支出の額の合計額が、下記の表の区分に応じそれぞれ「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度があります。
特定支出控除額の適用判定の基準となる金額:給与所得控除額×1/2
- 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)
- 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)
- 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)
- 職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)
- 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)
- 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの (勤務必要経費)
(1)書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)
(2)制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)
(3)交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)
出典:国税庁HP「給与所得者の特定支出控除」
なお、これらは会社からの証明書が必要となります「給与所得者の特定支出控除に関する証明書」。指定用紙は国税庁のHPからもダウンロードできます。
また、4の資格取得費は平成25年分以後弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となっています。
サラリーマンのスーツ代

では、サラリーマンのスーツ代も特定支出として認められるのでしょうか?
先ほどの国税庁の表に当てはめてみると、スーツ代は6.の勤務必要経費に該当します。
その中の(2)衣服費になりますが、勤務先でスーツの着用を求められている場合になるでしょう。
そもそも、このスーツ代の経費計上は、平成24年の税制改正で適用範囲が拡大されたことで、一気に知られることになりました。
しかし上記でご説明した通り、特定支出控除額として適用されるのは、給与所得控除額の1/2を超える部分の金額です。
給与所得500万円の場合
先ほど給与所得控除額の例題として計算した、給与所得500万円の場合に当てはめて確認してみましょう。
5,000,000円×20%+540,000円=1,540,000円(給与所得控除額)
特定支出控除額は給与所得控除額の1/2を超える金額ですから、1,540,000円÷2=770,000円になります。
例えば年間の衣服費が80万円発生したとすれば、770,000円を超える部分の3万円が特定支出控除額として計上できる金額になります。
ハードルが高いスーツ代での節税

サラリーマンの特定支出控除について、説明をしてきましたが、実際にこの恩恵を受けることが出来るのか考えていきましょう。
サラリーマンのスーツは職場やその業種にもよりますが、着用必須とされる風潮があります。特に営業職には欠かせないユニフォーム的なものです。
デパートなどで購入するブランドスーツから、紳士服専門店のスーツ、オーダーメイドの高級品まで様々です。
毎日消耗品としてスーツを着用するサラリーマンの、スーツ1着にかける金額は3万円~4万円と言われています。大抵は大手紳士服専門店で購入するという人が圧倒的です。
総務省統計局の平成29年度(4~6月)家計調査報告によると、1世帯当たりの1か月平均消費支出額は 240,326円でした。
そのうち被服及び履物は平均9,341円で、年間に置き換えると112,092円になります。そこから考えても、被服費に充当する金額は決して多いとは言えません。
給与所得控除の最低金額650,000円の1/2だとしても、325,000円です。1年間に325,000円分スーツを購入するとしたら、単純に考えて4万円のスーツだと8着も購入することになります。
実際には、1世帯当たりの1か月の平均収入はもっと多いため、更にスーツを購入しなければ特定支出控除の基準には達しません。
高級なスーツを購入すればいいのでは?と考えてしまいますが、この特定支出控除は勤務先の証明書が必要となります。
業種により多少の違いはありますが、一般的には会社がそのような高級スーツを認めるとは考えられません。個人の贅沢としか解釈されないでしょう。
しかも、特定支出控除は給与所得控除の1/2を超える金額です。あくまで超える金額ですから、実際には基準まで到達しなかったり、超えても僅かな金額では節税に結びつかない可能性があります。
サラリーマンのスーツで節税するのはハードルが高く、難しいと言えます。